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社会人になろうとした夏

歩いて5分のTSUTAYAに行ってABBAのCDを借りてきた。何故かABBAを聴きたくなった。
私は20歳までに死ぬと言われていたので、20歳を過ぎてからどう生きていいかわからなかった。今から思うと私は長い間自分をArtistだと認識していた。1978年、ABBA THE MOVIEとともにABBAの大ブームが日本で起きた。昭和で言うと53年、あの年私は初めて社会人という認識を持ったように思う。それまで地球からはみ出て、足を宙に浮かせて、面白おかしく生きてきたが、あの年、私はそれを止めた。
夏になると予備校や会話学校では夏期集中講座というのがある。私は初めて英会話の夏期集中講座を担当したのだ。8月、土日も含めてたしか16日間連続、毎日8、9時間の英語漬け。英会話講師になって2年目だ。そこの学校のシステムと私の言語観が合わなくて、最初何度も追加研修に行かされた。学監が回ってきて観察、結果本部に呼び戻されての再研修である。「またですか、私はこの仕事、向いてないのかもしれません。マシーンにはなりきれません。やめたほうがいいかもしれません」すると学監が言った。「Bruxellesさんは得難い人材です。いずれこの学校の財産になってもらいたい。だから学校のシステムに熟知していただくために、繰り返し研修に行ってもらっているのです」そこまで言われたら、私自身が学校に合わせるしかない。53年の夏期集中講座は校舎の場所も違えば生徒の数も普段の3倍、担当講師の選抜も厳しいはずだ。言わば、学校という組織全体の看板授業である。まずは講師の研修が行われた。私の相方は講師ではなく正社員のK先生。若くてハンサムでギターの弾き語りができる。そのうえ超張り切り坊やである。私も同じくらいにテンションを高めなくてはいけない。私が午前、彼が午後の担当と決まっていた。私は今までずっと夜のクラスの担当であった。まず生活のリズムを切り替えなければいけない。朝早く起きる、などということが私に出来るだろうか?「はじめまして、どうぞよろしく」K先生にまずは挨拶だ。
教材を7冊ほど渡される。それぞれ毎回何分、何ペイジ進むか、すでにプログラムが出来ている。休憩時間は場所を変えて、ロビーで外人講師を交えてのfree talk。内気な生徒も口を開けるように、様々な工夫が組み込まれている。それから各教材の使い方から授業展開の模擬レッスンである。ついてこれない生徒や気力の萎えかかっている生徒はいち早く見つけ出して、授業に引き戻さなければならない。緊張してシーンとさせるのも、笑いを交えてリラックスさせるのも、全部講師の技量にかかっている。教材は教材開発部があって独自のメソッドを打ち立てている。ここは製薬会社の新薬開発部に似て、学校の心臓部だということがわかってきた。マニュアル化すれば、フランチャイズ化できる。つまり、教材やシステムやマニュアルはすでにパッケージ商品で、講師は販売員のようなものだ。講師研修とは即ち販売員教育なのだと、いろんなことがわかってきた。
「私の担当クラスの生徒のレベルはどれくらいなのですか?」ー「ここに来るような人は、すでに40万50万の教材を買って、あるいは他の会話学校にも行って、結果挫折した経験があるひとがほとんどと思っていい。失敗の原因は何かというと、声を出して英語を話す時間が足りないということ。人との言葉の応答の訓練が足りないということ。会話経験にならないということ。この学校のメソッドはその獲得に重点を置いている。知識を与えるのではない、声を出して英語をしゃべるという経験を与える。教材はそのための工夫がなされています。従って知のレベルや英語のレベルは問題ではない。」
「逆に聞きますが、生徒たちはお金を払って、何を求めに来るのだと思いますか」ー「英会話力を高めるためではありませんか」ー「16日間という短期間の経験知を数値化することは不可能です。政治経済に無知な人が、会話体験を経たからといって、急に会話内容や人間が高度になるはずもないのです。この学校が授業料の対価として与えるものは満足感です。これにつきます。皆さんの評価もそれで決まります。覚えておいてください。栄養を摂取するためにわざわざ高級レストランに行く人はいないでしょう。人は満足感にしか、特別なお金を支払いません」
私の中のArtistがとても小さくなって、そのArtistに社会人という服を初めて着せた。
早い話が頭の中に英語がセンテンスとして入っていない人は、英文を構成することができない。まして喋れはしない。だからまず、短い疑問文を復唱させて暗記させる。次にその答えを復唱させて暗記させる。全員が暗記できたところで、疑問文を投げかける。one two threeと間を置いて、全員の頭の中に答えが浮かんだ頃に、一人を指名し、立って答えを英語で言わせる。全員が会話の成立場面を目撃、体験するわけである。間髪を容れず全員に同じ疑問文を投げかけ、それに対してすぐに全員が答えを復唱する。ここの学校の独自のメソッドは暗記させる、というところにあるので、このへんの開示は問題ないだろう。もし当てられた生徒が、答えを英語で言えなかった場合は、いきなり別の人を指名し立たせ、その人に質問を投げかけ、その人に答えさせる。答えが正解の場合は先ほど答えられなかった人に同じ質問を投げかけ、その人に答えを言わせる。そして両者を座らせる。答えられなかった人もバツの悪い時間を体験することなく、また結果的には正しい応答を体験して、できたという満足を得るわけだ。そのあとは先ほどと同じで、全員に質問を投げかけ、全員が答える。喉がカラカラになるまで教室にはほとんど全員の「英語の声」が延々と鳴り響くわけである。反復が主体なので記憶力に自信のない人も、不安にはならず、内気な人も気がつけば声に出して英語を話している自分を見出している、というわけだ。これは英語で声を出させる、という工夫の一例に過ぎないがよくできていると思う。語学の教授法というのは言語学者が日々取り組んでいる課題で、このような35年も前の方法が今も続けられているとは考えられないが。この集中講座10日目くらいに入ると、多くの生徒は夢の中で英語をしゃべるようになる。校舎のなかはAll ENGLISHなので、頭も外国仕様になる。それから全員が英語風名前を使用するので、生徒同士が英語で喋っていても違和感がなくなる。私は普段の授業では英語名を使用していなかったが、夏期集中では使用した。それが文頭に書いたCD、スエーデンのグループ、ABBAである。理由は4人分のパワーを持ちたかったからという単純なものである。

「満足度はどのように数値化するのですか」ー「簡単です。秋からのクラスに何%の生徒が継続するかどうかで決まりです」
これだけが原因ではないが、講師研修会の昼休みに、控え室に集まった夏期集中担当者たちの間から、あれこれと苦情が出た。主にここに登場しなかった〇〇部長の高圧的ヤクザ的物言いに対してである。私のように今まで遊び半分に仕事をしてきた人間には、いろいろ考えさせられることが多かった。つまりは仕事に取り組む姿勢である。そして資本主義社会の厳しさである。管理締め付けは、組織だけでなく、自分自身にも必要だと初めて認識した。目的のためには工夫が必要であり、その工夫は徹底的に緻密でなければいけない。アーティストの自己認識やアウトローという自己規定では、社会人としては生きていけない。どの程度成功するかはわからないが、私は生き方を変えなければ、そうまず時間厳守と世間並の早起きから生活を変えなければ、社会ではこの先やっていけないと、初めて気づいた。
昼休みの講師控え室に、驚いたことにひとり本部職員が紛れ込んでいた。その人は飛び交う苦情に対し、ついに隠し通せなくなったのか、みんなの顔を見回し小さくなってこう言った。「実は、みなさんがいま批判している〇〇部長にここに居るように言われている職員です。ごめんなさい。誰がどんな不満や苦情をここで言っているかを、〇〇部長に報告する役割で、ここにいます」
そこまでするか、の声もなく、そのあと批判がピタリとやんだのは言うまでもない。「成功のためには工夫が必要であり、その工夫は徹底的に緻密でなければならない」それがビジネスのプロである。確かに。それにしても〇〇部長のビジネス手腕、感嘆すべきか嫌悪すべきか、社会人のスタートラインにたったばかりの者には判断がつき兼ねた。

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