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Improvisation

何故三人がそこにいたのか思い出せない。そこ、とは俊夫の友人の谷田君の摂津本山の団地の一室。

谷田君は私と同じで、お父さんが病死していない。お母さんは帽子のデザイナー。嫁いでいるお姉さんは以前、神戸の「バイキング」の表紙デザインを担当していた、という。
小柄で内気な子に見えるのだが、まだ大学生なのに、夜は大阪ミナミのキャバレーでトランペットを吹いていた。学園祭のドサクサに、ヤクザからブルーフィルムを借りてきて、自宅でお金を取って秘密の上映会もしたらしい。度胸のある子だ。染色も自分で出来て、その日は好みの色に染めたヨットパーカーを着ていた。
それ以前にも、私一人で谷田君の家に行ったことがある。俊夫と車で摂津本山に向かっていて、高速で俊夫の車が故障した。私は一人でさっさと歩いて高速を降りた(高速道路には途中に階段が付いていて一般道路に降りることが出来る)。
一人で谷田君の家に行ったら、同じ団地の中に神戸新聞の「文芸評」を書いている知り合いの女性がいるので紹介すると言う。
ちょうど私は神戸の「風群」に初めての小説を発表したばかりだった。しかもその処女作を朝日新聞と神戸新聞が文芸評欄で大きく取り上げてくれた。会いに行った。
文芸評論家:お若いのですね。あの作品は40代くらいの人のものだと思ってました。強烈な印象でした。もう人生を見尽くした、たいていのことは経験し尽くした、あとは書くだけ、そういう人の作品だと・・
タイトルは「流れある群色」。すべて詩的表現のみを使って、しかも言葉の力に肉体が反応するくらいのストーリーを、と考えて書いた、ものだった。

谷田君はトランペットだけでなくオルガンもできる。思い出した。その日は支路遺さんの「疾走の終わり」の中の作品を私が初見で朗読して、谷田君がオルガンで即興演奏し、それを支路遺さん本人が録音作品化しようという企画で集まったのだった。

私は支路遺の詩集を手に猛烈な速度で疾走しまくった朗読をしている。支路遺さんはオープンリールのテイプを持参し緊張しまくって回している。谷田君は谷田君で楽譜なしの即興演奏である。ビシッと三人の呼吸が合って、次第に演奏は白熱、私は詩を朗読しながら、快感と恍惚に身を委ねた。三人とも真っ赤になって茹蛸状態である。そのうち谷田君が着ていたものを一枚一枚、演奏しながら脱ぎ捨て始めた。私の生涯においての最高のジャムセッションであった。
最高に仕上がった。一度支路遺さんにTapeを借りて、北新地のビルの一室の、現代音楽を聞かせる店で、回してもらったことがある。聞くだけで身体に火がつき血が逆流した。なにより谷田君が最高のジャズを演奏してくれていた。

支路遺はその直後に支路遺であることを放棄した。「あのテイプは、どうなったの?」何度か聞いた。詩集や詩誌や油絵と一緒に、全部の過去を処分したのだという。そう言われても、簡単に諦めはつかない。
「オレ、車が好きだからタクシーの運転手になろうと思うんだ」といい始めたり、大昔の話をしきりにしたり、最初の妻に会いに上京したり、薬をoverdoseして死にかけたり、今から思えば、彼は必死に底のない沼で、もがいていたのかもしれない。

「Bruxellesあのなあ、(暮らし)って重いんやで。オレはドアをドンドン叩いたのに、あいつは最後までドアを開けさえしなかった。(暮らし)の前には、愛も詩も、何もかも吹き飛ばされる」支路遺はそう言った。

そして支路遺耕治は消え、川井清澄は(暮らし)始めた。
「オレ、ミナミにマンション借りた。一度遊びに来てくれ」
白壁の部屋は黒のモノトーンの新品のインテリアでまとめられ、彼の編集企画能力同様、美的センスの良さに光輝いていた。
彼は市岡の過去、町工場の過去、苦渋に満ち息も絶え絶えだった支路遺耕治を、自らの意思で脱ぎ捨てようという新しい決意に満ちていた。
////////////////

Josephine BAKER 「Quand je pense a ca」

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